T&BThe party must go on.【兎虎】



 間接照明に照らされただけの薄暗い部屋でも、そのブロンドは綺麗だった。


 「バニーの髪、気持ちいいよな。」


 虎徹はそっと手を伸ばし、自分を抱きしめる恋人の頭へと触れる。
綺麗な色のふわふわとした髪は、触れているだけで安心させられた。
 以前のバーナビーはセットが乱れるとよく怒っていたものだったが、
最近は大人しく触らせてくれる。それどころか、虎徹に触られることを喜んでさえくれていた。
どんなに崩してしまっても、自分だけは許される。それがたまらなく嬉しかった。
 ある時それを口にしてからというもの、バーナビーはこれまで以上に髪型に気を遣うようになった。
「どうぞ好きなだけ乱してください」と言わんばかりに、だ。
先程、シャワーを浴びてからここに来るのに時間がかかったのも、きっとそのせいだろう。
限りなく確信に近い恋人の健気さを愛おしく思いながら、期待に応えるべく虎徹は指を動かして感触を楽しんだ。
 とろりとした目で幸せそうにバーナビーを見つめるその顔は無防備で、彼を普段以上に若く、幼く見せた。
だが、潤んだ瞳や薄く開かれた唇からは色気が溢れている。
 湧き上がる欲望を押さえながら、バーナビーは虎徹を抱き締める腕に力を込めた。
互いに下着1枚しか身に着けていないため、素肌がより一層触れ合う。
浴室で情事の跡を流したとはいえ、体の奥の熱は未だに冷めてはいなかった。


 「あまり煽られると、我慢できなくなりそうです。」


 耳元でそっと囁くと、虎徹の表情が変わった。
ベッドの隅に置いてあったうさぎの人形を二人の間に置き、ぎゅっと抱く。


 「こ、こ…、これ以上は駄目だからな!」


 真剣な顔で上目使いに訴えてくる姿は可愛く、全くの逆効果にしかなっていない。
だが、散々好きなように体を開き、無理を強いた自覚はバーナビーにもあった。


 「わかっていますよ。残念ですけどね。」


 クスクスと静かに笑うバーナビーを見て、虎徹は腕に力を込めて人形を更に抱き締める。
そしてそのまま、うさぎの耳に噛みついた。


 「何だよ、からかったのか?」

 「いいえ、僕は至って本気ですよ。そんな拗ねた顔をするなんて、もしかしてまだしたかったんですか?」

 「……っ!そんな訳ないだろっ!さっきあんなにしたのに…っ!」


 自分の言葉で先程の行為を思い出したらしく、虎徹は真っ赤になってしまった。
胸元の人形に顔を埋め、小さくなっていく。


 「そうですね。さっきは一生懸命僕を求めてくれて、可愛かったですよ。
出来れば今も、人形より僕を抱き締めて貰いたいんですけどね。」


 宥めるように黒髪をそっと払い、僅かに覗くおでこへとキスを落とす。


 「いいだろ、別に。この人形だってバニーちゃんなんだから。」

 「本物が目の前にいるんですから、僕を抱いてください。」

 「嫌だ!お前、すぐ変なことするからなっ。」

 「心当たりがありませんね。そもそも、それは僕が頂いたプレゼントなんですけど。」

 うさぎの人形は、バーナビーがバースデープレゼントとしてヒーロー仲間から貰ったものだ。
当時は関心もなく部屋の隅に放置していたが、虎徹が家に来るようになってからは彼の抱き枕として愛用されている。
 胸元に人形を抱えて眠る虎徹の姿は最高に可愛らしい。
だが、バーナビーがその人形にさえ嫉妬してしまうのも事実だった。
一緒にいる時くらいは素直に自分に甘えて欲しいが、恋人はなかなかその願いに応えてはくれない。
 自分がいない時ならば身代りに抱き締めてくれるのはいいかもしれないが、それはあくまで非常時のことだ。
バーナビーが虎徹を独りにするなど有り得ないのだから。
だが、やむなくそうした事態が起きた時のために、虎徹の誕生日にこれをプレゼントしても…。
そう考えたところで、バーナビーはあることに気付いた。




「虎徹さん。貴方の誕生日っていつなんですか?」








まさに今更な質問だった。

出会ってから1年はとうに過ぎているのに、バーナビーは未だ恋人の誕生日を祝ったことがない。
そもそも、いつ祝えばいいのかさえ知らなかった。


 「バニー。おじさんが更におじさんになる日なんて聞いてくれるなよ…。」


 唐突な質問に、何とも嫌そうな声が聞こえてくる。


 「僕にとっては大切な日です。いつなんですか?教えてください。」


 真剣に覗き込むと、人形の頭から覗いた目が逸らされた。
こういう時の虎徹は、どんなに聞いても答えてはくれない。
人のことには迷惑な程おせっかいを焼くのに、自分のことになるとなかなか打ち明けないのは
恋人関係になってからも相変わらずだった。


 「もうおめでたいって歳でもないしな。おじさんの誕生日なんて、祝わなくたっていいんだぜ。」

 「良くないです!恋人の誕生日を祝いたい気持ち、貴方にはわからないんですか?」

 「んー、それはわからなくはないけどな…。」

 そこまで言うと、虎徹は考え込んだ。バーナビーを説き伏せる言葉を探し、思考を巡らせる。
 だが、しばらく続いた沈黙を破ったのはバーナビーの方だった。


 「言う気が無いならいいですよ。それならこちらにも考えがありますから。」

 「へ?」

 思わぬ言葉に、虎徹の思考が現実へと戻ってくる。
 きょとんとした顔で見つめる恋人に、バーナビーははっきりと宣言した。


 「これから365日、毎日祝ってあげます。」


 一体どんな考え方をしたらそんな結論になるのだろう。
どこかズレている恋人の発言に、虎徹は呆れてしまった。


 「いや…。そんな、毎日祝うとか有り得ないだろ。毎日ケーキにロウソクとか、おじさん引いちゃうぜ?」

 「毎日チャーハンを食べている人が何を言っているんですか。1年続けば、どこかで正解に当たるでしょう。」

 今度はバーナビーが譲らなかった。
似た者夫婦とは良く言ったもので、虎徹のことに関しては彼も絶対に引くことはない。


 「俺、毎日プレゼントとか受け取らないぞ。」

 「では、何なら喜んでくれますか?」

 「何ってそうだな…。ば…、賠償金を払ってくれるとか…?」

 「それを貴方が望むのであれば。」


 全く動じない恋人の様子に、虎徹は溜息をつく。


 「さすがにそれは冗談だって…。お前にそんなもの背負わせて、俺が嬉しいと思うか?」

 「思いませんけど、貴方が少しでも喜んでくれるのなら、僕はそれでいいです。」

 バーナビーの真摯な態度からは、どうにかして虎徹を祝いたいという気持ちが溢れていた。
恋人のここまでの誠意を無碍にすることなど、誰が出来るだろうか。
 虎徹はとうとう観念した。


 「わかったよ。そこまで言うなら、何を望んでもいいんだろうな?」

 「毎晩抱くな…とかは困りますけど。」

 「夕飯は毎日お前が作ってくれ、とかは?」

 「虎徹さんのチャーハンが食べられなくなるのは困るので嫌です。」

 「お前のワインセラーにあるボトル、飲み放題とか。」

 「色気が無いですね。」

 「ははっ。何だよ、注文が多いんだな。」

 「貴方ほどではありません。」

 「そうか?俺が本当に望んでいるのは、これなんだけど?」


 そう言うと、虎徹はうさぎの人形を退けてバーナビーに腕を回した。
胸元へ頭を寄せ、ぎゅっと体を密着させる。


 「虎徹さん…?」


 突然のことに、バーナビーは理解できないようだ。
言葉を失い、ただただ驚いた顔で虎徹を見つめている。
 狼狽えた顔を見ると、自分の大胆さに虎徹自身も恥ずかしくなった。


 「俺は…、お前にずっと隣にいてほしいんだよっ。それくらい察しろっ!」

 「え…っ!?でもそれって、プレゼントじゃ…。」

 「俺が喜ぶことなら何でもしてくれるんだろう?俺は、お前とこうしてずっと一緒にいたいんだ。
毎日望みを叶えてくれると言うなら、いいだろう?」

 間近で見上げてくる虎徹の顔は、先程のバーナビー同様真剣だ。
縋る様に腕を、足を絡めて答えを待っている。
 もちろん、バーナビーの答えは決まっていた。背中に回した腕へと力を込める。


 「それが貴方の望みなら、喜んで。」


 その言葉に、虎徹の顔が瞬時に綻んだ。
バーナビーもそれに釣られて笑顔が溢れる。


 「僕にとっても、最高のプレゼントです。」

 「じゃあ、毎日お互いをお祝いだな。」

 「毎日がパーティーですね。」

 「お前と一緒なら、それもいいかもな。」

 それは誓いでも、約束でもない。
だが、互いが望むからこそ出来る最高のギフトだ。
一つでも多くのものを交わし、大切にしていこうという想いが二人の心に刻まれる。


 「大好きですよ、虎徹さん。」

 「俺もだよ、バニー。」


 そう言って、どちらからともなく祝福のキスを交わした。







 君が生まれてきたことに、今日も感謝しよう。





 新たな一日を共に過ごせることを祝おう。





 何気ないことを繰り返す日々であっても、君がいてくれることが特別なのだから。










Fin.



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白桃花-別館- 兎虎BL同人小説 『The party must go on.