T&B兎虎のドタバタホワイトデー【桃月コラボ】



「…で、どうしてこんなことになったんだい?」


大きなデスクにいる目の前の男が頭を抱えていた。
綺麗な折り目の入った高そうなスーツとは正反対に、ひどくくたびれた顔をしている。


「それは…、えーっと…、どうしてだっけ?」


怒る気力すらない様子の上司を前に、俺は相棒へと助けを求める。
お気軽な俺の言葉に呆れつつも、バニーは説明をしてくれた。



そう、それはついさっきのことだった。


出動命令を受けていつも通りに現場へ向かい、俺達は犯人を確保した。


「やったな、バニー!」

「あなたのアシストのお蔭ですよ。犯人もまさか、照明が落ちてくるなんて思ってもいなかったでしょうから。」

「いやー、そのな…。あれ、たまたまワイヤーをひっかけたら、ガシャーン!って…。」


散々逃走した挙句、巧みに建物内を逃げ回る犯人を追い詰めて、俺の気合いは相当入っていた。
他のヒーローが追いついていない今なら、確実にバニーにポイントをやれる。
息巻いた俺は、ワイヤーを利用して犯人に飛びかかろうと思った。
天井の立派な照明器具へとワイルドシュートを放って勢いよく飛ぶ。
だが次の瞬間、脆くも天井から崩れ落ちてきたそれと共に、俺は床へとダイブしたのだった。


「人ひとりくらいの重さなら耐えられると思ったんだよ。それなのに…。」

「あなた、スーツの重さも考えました?それに、ただぶら下がるだけじゃなかったでしょう?」

「それはそうなんだけどよー。あぁ、俺、また賠償金増えちゃう…。」

フェイスガードの上から両手で顔を覆い、派手に落ち込んでみせる。

「はいはい、大変ですね。賠償金の肩代わりは会社も許してくれないでしょうから、
しばらくは僕が食事をご馳走しますよ。ポイントのお返しに。」

「ほんとに!?やったー!お前とメシが食えるなんて、すっげぇ嬉しい。もう、バニーちゃん、大好き!」


バニーの言葉に、すぐさま俺の気持ちは浮上した。
食費が浮くのは願ってもいないが、こいつと一緒にいられる時間が少しでも増えると思うとそれだけで嬉しかった。


「あぁ、でも、お酒は別ですよ。あなた、すぐに飲み過ぎて寝てしまうんですから。」

「えー、いいじゃねーか。」

「駄目ですよ。何もできずに放置されるなんて御免です。」

「そんなこと言って、放置されるどころか気付いたらほぼ毎日手出してるじゃねーか!」

「ほぼ、じゃないですよ。あなたが気づいていない日もありますから。」

「お、俺が知らない時もあるのか!?」

「ええ、寝ている時の方が素直に声を出してくれますよね。それはもう可愛くて…。」


聞いているのも恥ずかしいバニーの言葉に、叫びそうになる。
しかし、次の瞬間耳にしたのは、自分のものとは思えない甲高い絶叫だった。


「いい加減にしなさーーーーーいっ!」


密閉されたヘルメットの中で、耳が痛くなるほどに響き渡る。


「あんた達、その会話がダダ洩れなのわかってんの!?」


氷の女王様がすさまじい剣幕で怒鳴ってきた。


「おう、ブルーローズ!お疲れさん。わりー、マイク切るの忘れてたわ。」

「マイクの操作より、年相応に自重しなさいよ!いい年して、聞いてるのも腹立たしいわ!」

「恋人たちの語らいを邪魔するなんて、無粋ですね。」

「何ですってー!?」

「あらー、せっかく楽しく聞いてたのに。」


そこへ、絶妙なタイミングで新たな声が加わる。
癖はあるものの、いつも通りの穏やかなトーンが耳に優しかった。


「お盛んなんて羨ましいわ。ハンサムがそんなにタイガーに夢中だなんて、妬けちゃうわよね。」

「全然!」

「あら、じゃあハンサムに夢中なタイガーの方が気になるのかしら?」

「な、何言ってるのよ!こんなおじさん、知らないっ!」


そして、何かが切れる音がした。マイクだけならいいんだが…。
急に静かになった通信に、ファイヤーエンブレムは悪びれる様子もない。


「あーあ、怒っちゃった。」

「お前、からかうなよ…。」

「別に、そんなつもりはなかったわよ?普段のアンタに比べたらマシだと思うしね。」

「俺?何もしてねーよ。」

「気付かないなら余計に罪ね。ほら、表でマスコミが今日の主役を待ってるわ。
盛り上がるのは結構だけど、早く行って落ち着かせないと周辺にも迷惑なのよ?」


気が利かないのは自覚しているが、人にそれほどひどいことをしているつもりはない。
ファイヤーエンブレムの言葉に不満はあったが、繁華街の真ん中でこれほどのマスコミや野次馬が集まれば、
交通網にも周辺の店にも影響は出る。経営者ならではの視点と気遣いに、俺達は素直に従った。

ビルの入口で犯人を引き渡し、賑わいの中心へと向かう。


「ほら、主役は早く行けよ。」

「あなたも一緒に決まってるじゃないですか。
好アシストもありましたし、何より僕達はバディなんですから。」


一仕事を終えた安心感で、俺達は完全に油断していた。
ネオンとフラッシュが眩しいその空間に進んでいくと、突然目の前で一際大きな光が瞬いた。

「わっ!」

「うわっ!」



次の瞬間、俺達は地面に叩きつけられた。
訳がわからないまま、何が起きたのかと必死に考える。
犯人の仲間がどこかに残っていたのか?


「大丈夫ですか!タイガーさん!?」


すぐ横でバニーの声が聞こえ安心した。
それだけで冷静になれた俺は、周りの市民に被害がないかと視線を巡らせる。
しかし、皆が不思議そうな顔をしている以外、そこには先程と変わらない光景が広がるだけだった。
敵の姿も見当たらない。

そこへ、一斉にフラッシュが浴びせられた。
ヒーローが地面に転がっているところなど撮られたくはないので、慌てて立ち上がる。
大丈夫、どこにも怪我らしきものはない。
俺はすぐにマスコミの方へと向かうと、珍しく自分から積極的に話をした。

「あー、大丈夫です。何か、皆さんの熱気に圧倒されちゃった感じですかね?ははっ。」

無事をアピールするため、フェイスガードを上げて何事もなかったかのように笑顔を作る。
顔出しNGの俺としては、この上ない大サービスだ。
すると、すぐ近くにいた女性記者が顔を真っ赤にした。

ん?俺に惚れちゃった?

滅多にない反応に、満面の笑みを見せてみる。
こんな大サービスをしたら、ファンが増えちまうかもな。
浮かれる俺に、いつもとは比べ物にならない数のフラッシュが瞬く。

あれ?俺ってこんな人気者だったっけ?

わずかに違和感を感じたが、平静を装った。


「今日も大活躍でしたね。ポイントを増やして1位独走の体勢を強めましたが、お気持ちはいかがですか?バーナビーさん!」

「そうですね。1位ということにも嬉しいですが、やはりタイガーさんのサポートのお蔭でここまで来られたと思うと…。」


隣に立ったバニーがいつものように質問に答える。
こんな時まで俺を立ててくれる相棒に感動したが、周囲の反応は薄かった。


「いえ、私は今、バーナビーさんに質問を…。」

「え?僕、お答えしてるじゃないですか。」

「いや、タイガーさんじゃなくて…。」


この人は何を言ってるんだ?バニーのコメントに何か不満でもあるのか?


「おいおい、何の冗談だよ。あ、もしかしてドッキリとか?
ヒーロー相手に嫌だなぁ。そんなの、面白くなーいぞっ!」


ポーズをつけてコメントした俺に、周囲が一気に赤面した。
あれ?何でこんな大勢の人が、こんなおじさんに照れてるんだ?
和ませたかったのに、反応悪いなぁ。
すると、隣にいるバニーまでもが微妙な声を出してきた。


「タ…、タ…、タイ…ガー…さ…ん…?」

「ん?何だよ、お前ま…で…って、あれ…?」


絞り出すような声のする方へと視線を向ける。
震える指を俺の方へと向け、相棒は固まっていた。いや、相棒のはずだった。

白をベースにした、緑が際立つスーツ。
そして、上げられたフェイスガードの中の中年の顔。どちらも見慣れたものだった。
が、それはあくまで鏡の中でのことだ。
なぜ、こんな場所でそれが俺の目の前に?
そういえば、さっきから声もいつもと違うような…?

いくら考えても出ない答えに、俺は近くのガラスへと目をやる。
そこにあるのは、赤いヒーロースーツと相棒の顔。
しかし、その前に立っているのは他の誰でもない俺だった。

そこに写るハンサムが、俺と一緒に顔をひきつらせる。

「な…、な…、何だこりゃぁぁぁーーーーー!!」


俺の叫びは、シュテルンビルトの夜空にそれはもうワイルドに響き渡った。



その後は、アニエスの指示でヒーローインタビューは早々に打ち切られ、俺達はすぐにトランスポーターで運ばれた。
アポロンメディア本社へ到着するとすぐにこの上司の元へと連れてこられ、現在に至るのだ。

早い話が、俺とバニーは中身が入れ替わってしまっていた。
目の前にいる自分の姿にとてつもない違和感を覚える。
だが、考えもしたことのないこの状況に、当人たちよりもロイズさんの方が落ち込んでいた。


「あぁ、どうしたらいいんだ。バディが入れ替わるなんて前代未聞な大恥だし、バーナビー君のクールビューティーなキャラとはかけ離れた笑顔は撮られるし…。」

「あの、それって俺のせいじゃないですよね?」

自分はあくまで被害者だ。そう言いたかったが、今のこの人には通用しなかった。

「大体、謎の光の攻撃を受けるだなんて、油断していたんじゃないのかい?
長年の経験も、こういう時には役に立たないんだな。」

「すみません…。」


どんなに落ち込んでいても、嫌味を言う力だけは残ってたらしい。
ストレートな批判に返す言葉もない。
いつも先輩面をしていても、こんな時にバニーを守ってやることもできなかった。
それだけは本当に悔やまれる。


「ロイズさん、それに関しては僕だって同じですよ。最近調子がいいからと油断していたんです。」


俺を庇うバニーの言葉に、上司は不満そうだった。
見た目が俺だからなのか、明らかに残念そうな、不快そうな顔をしている。


「はぁ…。君がこんな姿では、広告としての価値がどうなることか…。」


何度目かもわからなくなった溜息を聞いたところで、この陰鬱な空気を切り裂くようにデスクの上の電話が鳴った。



思わぬ来客とその人物が持ってきた話に、俺達は耳を疑った。


「野次馬も多かったから、貴方たちのことはもう世間に知れ渡っているの。マスコミもこぞってニュースにしてるわ。
テレビもネットも、貴方たちの話題で持ちきりよ。特にバーナビー、あなたの笑顔のお蔭でね。」


名前は違うが、指を指されのは俺だった。


「…は?俺?」

「そう。いつもはクールなバーナビーの笑顔が可愛過ぎるって、視聴者に受けているのよ。
写真だってかなり出回っているわ。複数のメディアを使って、相当な数字を稼げる。このチャンス、逃す訳にはいかないでしょう?」

「ちょっと待ってください!僕達、この状況もまだよくわかっていないんです。何より、元に戻れるかどうか…。」


急すぎる展開が続き、頭がついていかないのはバニーも同じだった。
珍しく必死の抗議をしてみるものの、乗り気になったアニエスは誰も止められなかった。


「原因究明と元に戻るための手段を探すのは、こちらの会社の方がしてくれるわよ。メカニックも担当している凄腕がいるみたいだし。」


斉藤さんのことか?あの人、そんなことまでできるのか?


「それから、今日はマスコミが貴方たちを追いかけているから自宅へ帰るのは禁止。
ホテルを手配したから、しばらくはそこで過ごしなさい。」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺、家に帰らないと家族からの電話が…!」

「この件に関しては全て、ウチで取り仕切ることになってるの。
マスコミ各社からの問い合わせがすごい数みたいだから、ある種の取材規制にもなるわね。
嫌なら別に、パパラッチの中に放り出してもいいのよ?」


そこまで言われたら、もう俺は黙るしかなかった。俺の都合にバニーまで巻き込みたくはない。
そんな俺の様子に、バニーも了承してくれたようだった。




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白桃花-別館- 兎虎R18BL同人小説 『ドタバタホワイトデー』