アポロンメディア本社の下は、マスコミで賑わっていた。
警備員が頑張ってくれている間に俺達は駐車場へと向かい、車に乗り込む。

アニエスが手配してくれた車は静かにビルを出て、夜のゴールドステージを走り回った。
尾行がないのを確認してようやく到着したのは、普段なら俺には縁の無い高級ホテルだった。
フロントを抜けることはなく、車を降りると一気に部屋へと連れて行かれた。


「セキュリティの都合で、一部屋だけのご用意です。何かあればご連絡ください。」

「手間かけてすみません。よろしくお願いします。」


警備担当の案内人と簡単な会話だけを済ませ、急いで部屋へと入る。
階数から予想はしていたが、そこは本当に立派な造りの部屋だった。


「うわっ、なんだこれ!!?俺の家よりでけぇ!」

「セキュリティ対策とはいえ、思ったよりいい部屋で良かったですね。」

「でも…、いい部屋過ぎないか?」

「そうですか?せっかくあなたと一緒なんですから、いい部屋の方がいいですよ。」

「それ、俺の顔と俺の声で言われると気持ち悪い…。」


この近くの高級マンションに住んでいるコイツには見慣れた光景なのか、大した反応も示さない。
こんな環境で平然としている自分の姿に加え、使い慣れない敬語やストレートに甘い話し方に妙な気分にならずにはいられなかった。
あからさまに嫌そうな顔をする俺に、バニーは困った顔をする。


「違和感を感じているのはあなただけではありませんよ。
でも、さすがに恋人に対して気持ち悪いとは思いませんけど。」

「自分の顔を見てそう言い切れるお前がすごいよ。」

「それだけあなたが好きなんですよ。」


そう言って、そっと俺に抱きついてきた。
目の前に迫った自分の姿に、全力で抵抗して離れる。


「だっ!やめろ!!」

「やっと二人きりになれたんですから、いいじゃないですか。最近、ずっと忙しかったですし。」


今月に入ってからの俺達のスケジュールは特にハードで、なかなか一緒にゆっくりと過ごすことが出来ていなかった。
バニーは毎日のように俺を求めてきたが、仕事と慣れないセックスで疲れ切った俺はまともに相手にしなかった。
それでもこいつは、俺が眠っている間に勝手に色々としていたらしいが…。

不本意な事情ながら手に入れた二人きりの空間。嬉しくない訳ではなかったが、
それを素直に受け入れられない俺の態度が不満らしく、バニーは拗ねた顔でもう一度近づいてこようとする。


「お前が良くても、俺は自分に抱きつかれる趣味はない!」

「あなたの目の前にいるのは、僕なんですけど?」

「それは分かってる。わかってるけど…、でも、見た目が…。」

「そんなことを言って、まさか、この姿の間は何もさせてくれないつもりですか?僕、とても我慢できそうにないですけど。」

「あ、当たり前だろ!?お前、自分相手に何か出来るのか!?中身は俺でも外見はお前だぞ!?」

「できますよ。外見が僕でも、中身があなたですから。」


どれだけ説得しようとも、バニーの意思は揺らがない。
真っ直ぐと言えば真っ直ぐだが、手に負えない頑固者でもある。


「バニー、今の俺を見てどう思う?」

「どうって、好きだと思ってますよ。今すぐにキスして、抱きたいとも。」

「そうか…。じゃあ俺、これからお前をナルシストバニー、略してナルバニって呼ぶわ。」


それだけ言うと、俺はソファに座ってテレビを見始めた。
こういう状態のあいつと真面に向き合っていてもキリがない。
冷静になるまで、少し放置しておくことにした。


「正直に言ったのに、どうしてそんな風に言われないといけないんですか!」


俺を追いかけて、バニーは近くへとやってきた。
こんな状況で、まだ食い下がるのかこいつは。


「自分の姿を見て、キスしたいとか抱きたいとか言うからだろ。」

「だから言ったでしょう?見た目が僕でも、中身があなただからキスしたいし抱きたいんです!
虎徹さんこそ、僕にそう思ってくれないんですか?」

「じゃあ聞くが、俺の外見がもしロックバイソンやファイヤーエンブレム、あるいはロイズさんになったとしても同じ事が言えるか?」


一向に引かないバニーに痺れを切らし、俺は視線を向けて究極の選択とも言える質問を投げかけた。


「もし他の誰かわからないやつになったとしても、中身が俺だからキスも抱くことも出来るのか?」

「できますよ。あなたであることに変わりはありませんから。」


迷いのない力強い答えに困惑してしまう。それでも俺は続けた。


「それが、ブルーローズやドラゴンキッドの姿だったとしても?」


繰り返される質問に、今度はバニーの怒りを感じた。
俺の顔なのに、そうとは思えない冷たい表情を見せる。


「質問の真意が計りかねますが?」

「今は、俺とお前が入れ替わってるだけだからそう簡単に言えるがな。自分とは違う身体になって、その身体を…。
いや、もういい。とりあえず、元に戻るまでは何もしない。どうせ、お前には言ってもわからねーだろしな。」

「それでは僕も聞きますが、あなたは僕が他の誰かと入れ替わったら、僕とは触れ合いたくもないですか?」

「触れたくないわけじゃない。触れちゃいけないんだ。お前に入れ替わったからまだ安心していられるが、もしこれが別の違う誰かの身体になってたらと思うと…。」


考えるだけでも鳥肌が立った。どんな事情であれ、バニー以外の人間に体を好きにされるなんて嫌だし、
例えバニーが入れ替わったことを受け入れてくれたとしても、あいつが俺以外の誰かの体を抱くなんて考えるだけで泣きそうだった。
頭に浮かぶ様々な光景を打ち消すように宣言する。


「とにかく、元に戻るまでは何もしない!」

「もしも、元に戻らなかったら?」

「………。」


そう、原因がわからない以上、元に戻れる保証はどこにもないんだ。
なるべく考えないようにしていた不安をはっきりと言われ、俺は言葉を失う。


「僕だって、あなたのような考えがない訳じゃありません。
でも実際に、今入れ替わっているのは僕達二人で、いつ元に戻れるかはわかりません。
そんな中であなたに触れたいと思うのは、いけませんか?」

「いけない訳じゃないけど、色々考えるとどうしても踏ん切りがつかない。ごめん…。」

「抱きしめるだけでも・・・駄目ですか?」


それまでとは違う張りの無い小さな声で、俺の前に膝を折る。
目の前にあるのは間違いなく俺の顔だ。それなのに、見たこともないような切ない顔をしている。
自分の意外な一面を見せつけられたような気がして動揺するも、こいつだって不安で人肌が恋しいのかもしれないと思えた。
俺だって、この不安をどうにかできるなら消してしまいたい。


「目…瞑る間だけだったら…。」


最大限の譲歩をし、俺はバニーへ背を向けて目を閉じた。


「ありがとうございます。」


ほっと息を吐くように声が聞こえ、背中に温もりを感じる。
回された腕がそっと俺を包むと、いつになく体が強張った。


「こんな風にするの、久しぶりですよね。」


素直に受け入れられない俺は、幸せそうな声に罪悪感を感じた。
だが、それでもバニーは優しく俺を抱きしめた。


「ごめんな…。」

「あなたが謝ることなんてないですよ。それより、嫌じゃないですか?」

俺の肩に顎を乗せて、甘えるように聞いてくる。密着度が上がるのがいいらしく、後ろから抱きついてくる時のこいつの気に入りの体勢だ。
俺もされるのは嫌ではないが、自分の姿でされていると思うと恥ずかしくなってくる。こいつ、まさかわざとやっているのか?


「目瞑って脳内変換してるんだから、だ…黙ってろ!」

「はい。」


段々と上がっていく心拍数が伝わるのか、堪えた笑いが背中越しに伝わってくる。
そして腕に力を込めて更に密着すると、前に回した腕を滑らせるように動かしてきた。
覚えのある感覚に目的を察するが、なぜか拒めなかった。拒まないといけない。

でも、拒めない。

黙ったまま何の反応もしない俺を覗き込むように、バニーが顔を近づけてくるのを感じた。


「虎徹さん…?」

「…っ!」


囁きと共にかかる温かい息に、体がビクリと跳ね上がる。


「み、耳元で喋るな!」

「どうしてですか?」


自分の声に反応してるなんて、恥ずかしくて言えるか!
バニーの質問に居たたまれなくなり、ジタバタともがいた。


「も、もう終わりだ さっさと退け!」

「もうですか?つれないですね。」


不満そうな声ではあったものの、意外にもバニーは素直に俺を解放した。
勢いよくソファから立ち上がるものの、目を合わせることもできない。


「明日は、これのせいでアニエスから特集とか言われてるんだからな!早く寝るぞ!」


何とかこの状況から切り抜けたくて、俺は宣言した。
視界の隅では、ソファに座ったままの俺が笑っている。


「わかりました。じゃあ、お風呂をお先にどうぞ。」

「入ってくるなよ!」

「いってらっしゃい。」


クスクスと上品に笑う顔に違和感と怒りを感じながら、俺はバスルームへと向かった。

背後で勢いよくドアを閉めると、大きな溜息が漏れる。


「なんであいつは、ああも平気なんだ?こっちは色々不安で仕方が無いっていうのに…。」

手早く服を脱ぎ、浴室へ入る。
ゆっくり湯船に浸かりたいとも思ったが、すぐにその考えは打ち消された。


「あの様子だと入ってくる可能性があるから、シャワーで軽く済ますか。」


一緒にいられること自体はもちろん嬉しいが、期限のない二人きりの共同生活だと思うと今のバニー相手には心が休まらない。

二度目の溜息をつきながら、シャワーのコックを捻った。
熱めのお湯を勢いよく浴び、髪や体を洗っていった。
ガシガシと力任せな俺の洗い方を目の当りにしたら、あいつは怒ることだろう。
そんな自分の考えに笑いが込み上げてきた。


「それにしても…、こうメガネとると視界が悪いな。」


普段の自分の体との違いに不便さをつい感じてしまう。
あいつがベッドで眼鏡をあまり外したがらないのもわかる気がした。
いや、見えない方が俺としてはいいんだが。


それでも、ぼやけていてもはっきりわかるものもある。


「あれだけでしっかり反応して…。バニーは若いな…。」


己の下半身の変化に、俺は三度目の溜息をついた。
見慣れてはいるものの、改めて見ると本当に大きい。
直接的な刺激などなにも与えられていないのに、それはすでに膨張しきった俺のモノよりも大きく膨らんでいた。


「いやいや、落ち着け!冷静になれ、虎徹!」


散々浴びた熱いシャワーを冷水に切り替え、頭を冷やす。
そして、頭からつま先まで滴る体をタオルで拭きながら早々に浴室を出た。






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白桃花-別館- 兎虎R18BL同人小説 『ドタバタホワイトデー』