白桃花-hakutouka- ウェブカレ日和 (ウェブカレ二次創作)


文章/OG美鈴さん  イラスト/桃っぽい           仮校舎公式イベント(2012年8月)


初めてバレンタインにチョコをもらった年の3月、お姉ちゃんは僕にこう言った。 

『いいこと、駿?ホワイトデーのお返しには、暗黙のルールがあるのよ』 

本命のコには「三倍返し」。 
義理チョコでも、いかにも安物とわかるものは絶対に避けること。 
グループでひとつのチョコをもらっても、お返しは個々にすること。 
大きな箱・袋から配るのはダメ。ひとりずつ個別に用意すること。 
ウケを狙うのは×。かといって、つまらなすぎてもダメ。適度に可愛さを。 

「駿くん、それ守って、毎年お返ししてたの?」 
「うん。去年、先輩がすっごい高そうな洋菓子の箱から1つずつ配ったら、 
しばらくファンの子たちから総スカン食らったんだよね~」 
「……男子も、大変なんだね……」 

ホワイトデーを控えた日曜日、僕はキミと白薔薇区の繁華街を歩いていた。 
中学から、ホワイトデーのお返しは自分で選べと言われてる。 
毎年、ホワイトデー直前の日曜日は、お返しを買う日になっちゃってるけど、 
今年がいつもと違ってちょっと楽しいのは、隣にキミがいてくれるから── 

  ◆ 

『……本命の逆チョコ、受け取ってください!』 

決死の思いで、キミに逆チョコと1輪の白薔薇を手渡したとき、 
震える手でとっても嬉しそうに受け取ってくれたキミの笑顔はボクの宝物。 
間違って会長に渡ってしまったキミのチョコへのお返しももちろんだけど、 
キミが僕に選んでくれる「逆チョコのお返し」もすっごく楽しみ。 

『逆チョコなんてもらったの初めてで、お返しに何がいいのかわからなくて』 

だから、よかったら一緒に買いに行こうよ、って誘ってくれたキミと、 
繁華街の噂のお店を見て回って、ショーウィンドウとにらめっこ。 
お姉ちゃんが好きなあの店のクッキーに、その店員さんおすすめのミルフィーユ、 
雑誌に載ってたおしゃれなお店のキャンディーに、カラフルなマカロン……。 

「このマカロンかわいい!…あ、こっちのクッキーも美味しそう~」 
「ん~…マカロンって値段もちょうどいいんだけど、日持ちしないんだよね~」 
「……駿くんって、お菓子大好きなだけあって、そういうとこ侮れないよね」 

言いながら、隣のショーケースに並ぶフルーツたっぷりのタルトに目を輝かせるキミ。 
……うん。そっちのイチゴも、こっちのキウィも、みんな美味しそう。 
だけど……キミのイメージなら、断然、オレンジのタルトだよなぁ。 

それも、キミにあげるなら、カットじゃなくてホール……って、うわ!高っ! 

「……駿くん?どうしたの?」 
「えっ!?う、ううん、なんでもないよ!」 

ここのクッキー、第一候補にするよ、と誤魔化して次の店へと移動する。 

3月に入ったとたん、空気が緩んでいるって思いたくなるのは僕だけじゃないはず。 
もう春はすぐそこまで来てる……そんな浮かれた足取りで繁華街を歩きながら、 
でも、頭のどこかがとっても後ろ髪引かれる感じがしていた。 

さっきのタルト……僕が用意した「三倍返し」の予算の倍だなんて、神様は意地悪だ。 

  ◆ 

女の子って可愛いけど、男子にとってはなかなかムズカシイ生き物だってことは、 
生まれたときからお姉ちゃんと付き合ってきた僕は、とっくにわかってるつもり。 
バレンタインデーにもらった30個くらいの義理チョコの、 
内訳をざっと思い浮かべながら、どのお菓子を何個ずつ買えばいいか考えてみる。 

「えーっと、クラスの分が10個くらいで、部活の分が20個くらい…… 
そのうち後輩の子が8個くらいだから……」 
「え?全部同じものじゃないの?クラスメートとか、学年でも違うの?」 
「ん~…お姉ちゃんが、クラスメートの義理とファンの熱意を同じに扱うのはダメって。 
先輩と後輩で差をつけないのもNG、でも同じグループで違うとケンカになるかもって」 
「……う…なんか、本当に大変だね……ご、ごめんね……」 

キミのせいじゃないのに、女子のプライドの全責任を背負ったみたいに縮こまる。 
お姉ちゃんの言うことが正しいかどうか、僕だってぜんぜんわからないのに…… 
けど、そんなキミが可愛くて、僕が思わず吹き出すと、キミは顔を真っ赤にさせた。 

「えっ!なんで笑うのー!」 
「ごめんごめん!でも男子もけっこう気を使うんだってのはホントだよ」 
「そうなんだね…去年はクッキーまで作ってくれたもんね……」 

去年のホワイトデーは、お姉ちゃんの占いでクッキーを手作りした。 
ものすごく時間がかかって、キミに渡すときはとっても緊張したなぁ。 
あのときも、女の子ってすごいなぁ、って、感心したのを覚えてる。 

「駿くんお手製のクッキー、美味しかったよ。とっても嬉しかったし」 

気づいたら、キミと手を繋いでた。 





笑いながら、賑やかな繁華街の歩道を二人並んで歩いていく。 
クラスメートやファンの子たちに返すお菓子も、 
キミと選ぶと、春風みたいなパステルカラーに染まって見えるよ。 

  ◆ 

「よっし、第一候補のクッキーも無事ゲット…」 

カラフルなマカロンの店に戻って、会計を済ませてキミを振り返ると、 
キミはまたフルーツタルトのショーケース前で、 
手を顎にあてて何かを考え込むような仕草でじーっと一点を見つめて…… 

……あ、さっきの、オレンジのタルト。 

「……ねえ。それ、美味しそうだよね」 
「えっ?あ…うん。このオレンジ、見てるだけで元気出る」 

この店のオレンジのタルトは、オレンジを輪切りにしたものじゃなくて、 
一房一房を薄皮から出しててんこ盛りにした、プチプチの果肉が贅沢なタルト。 
太陽の光を閉じ込めたようなオレンジ色が、見てるだけでウキウキさせる。 

そう…僕に元気をくれる、キミのイメージにぴったりって思ったんだ。 

「……あのさ、カットを買って、僕んちで食べない?」 
キミと僕とで1コずつ買って、二人で食べれば、それがお返しになるし。 
そう言って笑ったら、だけど、キミはさっきの考え込む顔を見せた。 

え…食べたいってわけじゃないのかな……? 
がっかりしかけたそのとき、キミが意を決したように僕を見た。 

「……ねえ、駿くん。これ、いっそホールで買わない?」 
「えっ?」 
「駿くんの予算にもよるけど……二人で半分ずつ出し合って。 
私、本命逆チョコの『三倍返し』の予算、ちょうどこの半分なんだ」 

……え!? 
僕たち、同じものに惹かれて、同じことを考えてたの!? 

「う…うん。うん!いいよ!大丈夫!ってゆーか僕の予算も同じくらい!」 
「本当!?よかった♪だって、これ買うなら絶対ホールがいいもん」 

僕たち二人の「お返し」だから、プレゼント用に包装してもらって店を出て、 
待ちきれなくなった僕はキミに話しかけた。 

「そのオレンジのタルトさ、キミみたいだなって思ったんだよね」 
「……えっ?」 
「いつも笑って、僕に元気をくれるキミのイメージ♪」 
すると、キミはその頬をほんのり染めて、伏し目がちにつぶやいた。 

「わ…私は、このオレンジ、駿くんみたいだなって思って……。 
お陽さまみたいに、明るくて、あったかくって、笑わせてくれて……」 

……空気が緩んでいるって思うのは、僕だけじゃないはず。 
もう春はすぐそこまで来てる……浮かれた足取りで繁華街を歩きながら、 
僕は照れまくってしまってどうしたらいいかわからない。 

とりあえず精一杯の照れ笑いを向けたら、キミも照れたように笑って、 
次の瞬間、二人して甘酸っぱい照れくささを思いっきり笑い飛ばした。 
午後の陽射しが、とてもあったかく感じた。 

〈Fin〉


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